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2010.08.28 (土)

「 イルカ漁の映画『ザ・コーヴ』が日本に突きつける問題の深刻 」

『週刊ダイヤモンド』   2010年8月28日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 851

和歌山県太地町のイルカ漁を隠し撮りした米映画「ザ・コーヴ」(入り江)がアカデミー賞を受賞したのは今年3月だった。以来、内外で激しい論争が展開されている。

「隠し撮りだった」「事実誤認および捏造が多い」などの批判をよそに、映画を主導したイルカ保護活動家のリック・オバリー氏らは、今年秋、第二弾をテレビでシリーズ化すると宣言した。イルカ漁を中止に追い込むまで、全面的告発を継続すると語る。

今回、友人から映画の英語版を借りてじっくりと見た。日本向けの「ザ・コーヴ」からは削られたシーンもすべて含まれているという。見て痛感したのは、同映画が日本に突きつけている問題の深刻さである。私たち日本人がこの先、どのように、国際社会と渡り合っていかなければならないかを考えさせられる。

オバリー氏は1960年代の米テレビ番組「わんぱくフリッパー」でイルカの調教師を務め、撮影のストレスでイルカを死なせてしまったことを悔いて保護活動に転じたという。氏の思い入れは強くこんな話も披露している。

「(そのイルカは)私の腕の中で自殺を遂げたのです。彼らは呼吸を止めて、自らの命を終わらせることができる存在です。私の目をじっと見つめ、訴えかけるまなざしのまま潜り、二度と浮き上がってこなかった。呼吸をやめたのです」

イルカ自殺説はどう見ても思い込みが強過ぎるが、イルカと人間の美しい映像が、氏の情緒的主張への違和感を巧みに減殺する。オバリー氏の人脈は、国際社会の「一流」の人びとへと広がり、彼らが「フル・オーケストラ」と呼んだ大規模撮影チームが構成された。深夜、「一流の技術者」は黒装束に身を固め、太地町の海深く潜り、あるいは入り江を見渡す山々に侵入し、舌を巻く手際よさでカメラや録音装置を秘かに設置した。このような大規模な仕掛けの前では、太地町の漁民も町長も、まるで無力である。彼らの抗議の声は野蛮な暴論と位置づけられるだけだ。

深夜の行動を不審に思った地元の人びとが調査に赴き、英語で質す場面もあった。日本側は英語表現能力の低さゆえに、思うような質問さえ出来ない。その拙い英語の質問を、オバリー氏は翻弄するかのようにはぐらかす。映画で英語を駆使して表現豊かな主張を展開するのはすべてイルカ漁批判派であり、日本政府も太地町側もまったく歯が立たない。

一連のやりとりに滲み出ているのは、日本に対するいわく言いがたい偏見である。映画を作った視点にも手法にも、抜きがたくそれがあると、私は感じた。

では、どうすればよいのかだ。問題は、イルカ漁と対欧米諸国関係に限らない。歴史、領土をめぐる中韓両国との関係も同じである。日本の主張をいかに説得力をもって世界に伝えていくかが問われている。映画は事実を歪曲した、受け入れがたい不公平な手法だという「事実」だけでは、日本の声は聞き入れてもらえない。それが現実だ。

ならば、日本人が工夫するしかない。国際社会に日本の声を届ける方法に知恵を巡らし、努力するしかない。このことは、私個人にとっても長年の課題だが、今必要なのは個人の域を超えた国家の意思である。

たとえば中国はいま、対外広報に6,300億円もの予算を使っている。その中には全米各地で24時間放送を実現し、「中国版CNN」を実現するための予算も入っている。中国メディアの拠点を米国からさらに国際社会に広げ、国際社会を中国のものの見方の枠内に取り込む戦略を推進中なのだ。

対して日本政府の対外広報費は209億円で、さらなる削減傾向にある。情報戦こそが国際社会を動かす。一国の運命を制する。だからいま、日本の意思疎通能力を政府はあらゆる努力で改善していかなければならない。

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